女性にとって大切なイベントである妊娠、出産。乾癬があることや乾癬の治療をしていくことでどの様な影響があるか、心配になる方が多いと思います。様々なデータ、経験からわかってきたこともたくさんあります。乾癬治療中の女性が安心して妊娠、出産を迎えることが出来るように知識を高めていただければと思います。
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乾癬があっても妊娠していいの?
問題ありません。ただし、安全のために以下のポイントを押さえていただく必要があります。
乾癬があることで妊娠した場合の赤ちゃんへの影響
乾癬は全身性炎症性疾患と言われるように、全身への影響を与えうる疾患です。そこからも分かるように乾癬が重症な場合、低出生体重児が生まれる確率が高まることが知られています1)。軽症の場合は全く影響がありません。
妊娠したら乾癬はどうなるの?
妊娠した場合、乾癬は改善する、悪化する、変わらないなどの可能性がありますが、55%の妊婦さんは乾癬が改善し、不変21%、悪化23%と言われています2)。どの様なタイプの乾癬で妊娠した場合に改善するのか、または悪化するのか、という明確な証拠はありません3)。また、予測はできないことがわかっています。ただ、以前の妊娠で乾癬が改善した人は、次の妊娠も同様の経過を示す傾向が高いことが分かっています4)。乾癬があることは胎児死亡や妊娠成立までの期間延長に影響を及ぼさないということも分かっています5)。
妊娠したら乾癬が良くなる、という経験の方が多いですが、悪化することもあります。
赤ちゃんが乾癬になる確率は?
乾癬になりやすい体質は遺伝する可能性があります。しかし、その体質があっても乾癬を発症するとは限りません。親が乾癬で子どもが乾癬を発症する割合は、欧米では20~40%程度ですが、日本では4~5%程度といわれています。
乾癬のお母さんから生まれた子が乾癬になる確率は5%前後とのことです。
妊娠中に可能な乾癬治療
塗り薬
特に問題となる塗り薬はありません。ステロイド外用薬は通常の使い方で赤ちゃんに影響を与えないことが示されています6)7)。ただし、使用量は気をつける必要があります。活性化ビタミンD3外用薬は胎児に移行する可能性も指摘されていますので、添付文書上ではオキサロール、ドボネックスが「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用すること」と記載されています。ボンアルファは「大量または長期にわたる広範囲の使用を避けること」と記載されています。
飲み薬
メトトレキサートは男女とも投与終了後3ヶ月の避妊が必要です。エトレチナート(チガソン®)は催奇形性が問題となりますので、女性は投与終了後2年、男性は半年の避妊が必要になります。投与2年以内に先天性奇形のあるお子さんを出産した例が報告されています8)。オテズラは妊娠中は投与禁忌になります。海外では禁止されていない国もありますので、過度の心配はいりませんが、妊活を考えるタイミングで主治医と中止について相談するほうが良いでしょう。またJAK阻害薬も妊娠中は禁忌です。シクロスポリンは禁忌ではありません。
光線療法
妊娠中は光線療法を行うことができます。光線療法を行うことでの全身への影響は少ないと考えられています。ただし、妊娠中はシミができやすいので、お顔に皮疹ができていない場合は光線療法を行う際にしっかり日焼け止めをしておく必要があります。また、累積照射量が多くなると葉酸が減少してしまうことが知られています9)。
生物学的製剤
生物学的製剤は免疫グロブリンという蛋白を人工的に合成したもので、IgGという胎盤を通過できるタイプのものが通常利用されます。いろんな病気の抗体をお母さんからもらい、赤ちゃんが感染症にかかりにくくするために、このIgGが胎盤を通過できるようになっています。セルトリズマブペゴル(シムジア)という薬は、ペグ化という特殊な製法で作られているため胎盤を通過できません。そのため妊娠中に使用しやすい生物学的製剤になります。また、胎盤が完成するまでは生物学的製剤は赤ちゃんに影響を与えにくいですから、妊娠初期には使用は可能です。ただし、どのタイミングで中断すべきか、という点についてはデータが少ないため使用については主治医や産婦人科の先生とよく相談する必要があります。それぞれの生物学的製剤について、わかっている限りでデータをまとめました。
TNF阻害薬
抗TNFα抗体製剤に関して、催奇形性は示されていません。抗TNFα抗体製剤を妊娠末期まで投与されていた母体より出生した児に生後3か月目でのBCGワクチン接種を行ったところ、全身性の感染を呈して死亡したとの1例報告があります10)。インフリキシマブ11)では特におおきな問題がありませんでした。アダリムマブ12)では大きな調査で明らかな妊娠中のリスク増加とは結びつかないと結論づけています。セルトリズマブペゴルは、胎盤移行がほとんどないことで妊娠に関しての安全性が高いことと、妊娠の全経過で使用可能なため、海外では妊娠中の生物学的製剤の第一選択と位置付けています13)。
IL-17阻害薬
セクキヌマブに関する研究では、238人中65%は妊娠初期には使用中止しましたが、3人は使用継続しました。出産まで特に問題は起こりませんでした14)。しかし、妊娠がわかったら中止することが望ましいとされています。同様にイキセキズマブ使用例193例では特に明らかな問題がありませんでした15)。ブロダルマブ、ビメキズマブでは大規模の報告が見つかりませんでしたが、目立った問題の報告も見られませんでした。
IL-23阻害薬
ウステキヌマブに関しては調査で明らかな安全性の懸念がないことが知られています17)。セクキヌマブと同様、妊活開始から使用しないことが推奨されています18)。グセルクマブ、リサンキズマブ、チルドラキズマブについては報告が見つかりませんでしたが、ウステキヌマブと同様の扱いになるのでは、と考えられます。
生物学的製剤投与中の対応
生物学的製剤の投与は妊娠20-22週, 少なくとも妊娠30Wまでには中止すべきとされています19)。これは薬剤がブロックするサイトカインに関わりません。その理由ですが、胎盤が完成してくる時期になるとIgGの胎盤での輸送が始まり、妊娠後期になるとどんどん増加してくるからです。
顆粒球吸着除去療法
膿疱性乾癬、乾癬性関節炎に適応があります。白血球の一種「顆粒球」を特殊なビーズで吸着して取り除く治療法であり、妊娠中でも胎児が安定していれば多くの場合、使用が可能です。特殊な装置が必要なため、大きな病院でしか行なえません。
使用できる薬剤、治療法まとめ
外用薬:ステロイド、ビタミンD3
内服薬:シクロスポリン
光線療法
生物学的製剤:セルトリズマブペゴル
顆粒球吸着除去療法
乾癬の治療に関しては多くの選択肢がありますが、妊娠前、妊娠中の治療選択肢は狭まってしまいます。母子ともに安全、かつ健康な状態で妊娠が継続できるように上手に乾癬をコントロールしていただければ、と思います。
参考文献
1)Yang YW et al: J AM Acad Dermatol 2011, 64, 71-77.
2)Murase JE et al: Arch. Dermatol. 2005, 141, 601–606.
3)Weatherhead S et al: BMJ. 2007;334(7605):1218–1220.
4)Raychaudhuri SP et al: Int J Dermatol . 2003 Jul;42(7):518-20.
5)Harder E et al: J Invest Dermatol 2014, 134, 1747–1749.
6)Ferreira C et al: Drugs Context. 2020; 9: 2019-11-6.
7)Chi C-C, et al: Cochrane Database Syst Rev. 2015;(10):CD007346. doi: 10.1002/14651858.CD007346.pub3.
8)小野田亮ほか:静岡産科婦人科学会雑誌. 2013:2 (1), 32-36. 2013.
9)El-Saie, L.T et al: Lasers Med. Sci. 2011, 26, 481–485.
10)Cheent K, et al. J Crohns Colitis. 2010;4:603-605.
11)Katz JA et al: Am J Gastroenterol 2004, 99:2385-2392.
12)Chambers CD et al: PLoS One. 2019 Oct 18;14(10):e0223603. doi: 10.1371/journal.pone.0223603. eCollection 2019.
13)Smith, C.H. et al: Br. J. Dermatol. 2020, 183, 628–637.
14)Warren, R.B et al: Br. J. Dermatol. 2018, 179, 1205–1207.
15)Egeberg A et al: J Dermatol Treatment. 2021, 21;1-7.
16)Owczarek W et al: Postepy Dermatol Alergol. 2020;37(6):821-830.
17)Wils P et al: Aliment Pharmacol Ther. 2021 Feb;53(4):460-470.
18)Sammaritano LR et al: Arthritis Care Res 2020; 72: 461-88.
19)Ostensen M et al: Current Opinion in Pharmacology 2013: 13(3), 470-475
20)Ciobanu A M et al: Diagnostics 2020, 10(8), 583; https://doi.org/10.3390/diagnostics10080583