アトピー性皮膚炎、乾癬性関節炎、円形脱毛症にJAK阻害薬を用いた治療が可能です。JAKとはヤヌスキナーゼといいます。炎症反応あるいは免疫反応に関係する蛋白質(サイトカイン)が標的となる細胞に出ている受容体と結合し、その情報を細胞内にシグナル伝達するために必要とされる酵素です。
JAKという酵素は、JAK1、JAK2、JAK3、チロシンキナーゼ2(TYK2)という4種類があり、それぞれに組み合わさってサイトカイン受容体と結合しています。JAKは細胞内で情報を伝達するSTATをリン酸化してSTAT側は7種類あり(STAT1-4, 5A, 5BおよびSTAT6)、受容体に結合するサイトカインにより異なるSTATが対応しています。流れは以下のようになります。
→JAKによって転写因子であるSTATがリン酸化される
→STATが核内へ移行
→DNAに結合
→遺伝子発現、効果を発揮
JAK阻害薬は、それぞれの得意分野があります。バリシチニブはJAK1とJAK2,ウパダシチニブ,アブロシチニブはJAK1と,それぞれの薬剤で強く阻害するJAKが異なります。JAKはいろいろなタイプのサイトカイン受容体に結合しているわけですが、それぞれパターンが違います。
皮膚疾患とJAKの関わり
JAKは様々な細胞に分布しています。この下図に記載されている白斑も、細胞性免疫の関わりが示唆されています。そのため、JAK阻害薬の臨床応用が試みられており、結果が期待されています。皮膚疾患ごとにキーとなるサイトカインが異なります。
皮膚科で使用するJAK阻害薬は5種類
バリシチニブ(オルミエント)
オルミエントはJAK1/JAK2を阻害する薬剤です。皮膚科領域ではアトピー性皮膚炎と円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)に適応があります。円形脱毛症の(ただし)についてですが、具体的には50%以上に脱毛が認められ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない状態のことを言います。円形脱毛症については2022年6月20日に適応追加されました!
用量は4mgを1日1回経口投与、状態に応じ適宜減量、となっています。相互作用がありますので、プロベネシドを内服している方は減量が望ましいとされています。
ウパダシチニブ(リンヴォック)
リンヴォックはJAK1を阻害するお薬です。通常は15mg錠を1日1回1錠、毎日服用しますが、患者さんの状態によっては、7.5mgへの減量が可能です。アトピー性皮膚炎に限って倍量の30mgを処方することが可能です。
アブロシチニブ(サイバインコ)
サイバインコはリンヴォックと同じくJAK1を阻害する薬剤です。50mg・100mg・200mgの3剤形があり、通常用量の100mgから増やしたり減らしたりできます。状況に応じて柔軟な処方ができるのは利点です。適応は現在の所アトピー性皮膚炎のみになります。
デュークラバシチニブ(ソーティクツ)
ソーティクツは乾癬に適応のあるTYK2を阻害する薬剤です。JAK阻害薬の中では比較的副作用が少ないのが特長です。尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。乾癬性関節炎には適応がないので注意が必要です。
リトレシチニブ(リットフーロ)
円形脱毛症に適応を取得したJAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬です。現在発売され、使用可能です。発売1年を経過するまでは、2週間までの処方制限があります。
JAK阻害薬を使う際に準備しておくべきこと
活動性結核、妊娠中はすべてのJAK阻害薬が使用禁忌になります。血球減少(好中球 500/mm3未満、リンパ球 500/mm3未満、ヘモグロビン 8g/dL未満)も禁忌です。オルミエントは重度の腎機能障害、リンヴォック、サイバインコは高度の肝機能障害で禁忌です。投与を決めた段階で、事前に検査が必要になります。結核についてはレントゲン(場合によりCT)や血液検査、ツベルクリン反応などを調べます。また、B,C型肝炎ウイルスが陽性の場合、先に専門家の意見をいただいた上で開始の可否を決めます。以上まとめたような事前の検査でしっかり安全性を把握してから投与開始となります。
多くの薬剤が使えるようになり、治りにくい患者さんにとって福音と思います。薬価が下がってほしいものです・・・・。
アトピー性皮膚炎
最適使用推進ガイドラインには、以下のように定められています。JAK阻害薬の内服は、事前に十分な外用薬などの治療を行っていても難治であった方が対象となります。今まで何もやっていない方であれば6ヶ月程度ガイドラインに沿った外用薬による治療を行い、それでも改善しない場合に使用します。
投与の要否の判断にあたっては、以下に該当する患者であることを確認する。
1 アトピー性皮膚炎診療ガイドラインを参考に、アトピー性皮膚炎の確定診断がなされている。
2 抗炎症外用薬による治療では十分な効果が得られず、一定以上の疾患活動性を有する、又は、ステロイド外用薬やカルシニューリン阻害外用薬に対する過敏症、顕著な局所性副作用若しくは全身性副作用により、これらの抗炎症外用薬のみによる治療の継続が困難で、一定以上 の疾患活動性を有する成人アトピー性皮膚炎患者である。
a) アトピー性皮膚炎診療ガイドラインで、重症度に応じて推奨されるステロイド外用薬(ストロングクラス以上)やカルシニューリン阻害外用薬による適切な治療を直近の 6 カ月以上行っている。
b) 以下のいずれにも該当する状態。
・ IGAスコア3以上
・ EASIスコア16以上、又は顔面の広範囲に強い炎症を伴う皮疹を有する
(目安として、頭頸部の EASI スコアが 2.4 以上)
・ 体表面積に占めるアトピー性皮膚炎病変の割合が10%以上
また、投与できる施設も決められております。
次に掲げる医師の要件のうち、本製剤に関する治療の責任者として配置されている者が該当する施設(もちろん院長は要件を満たしております!)
ア 医師免許取得後2年の初期研修を終了した後に、5年以上の皮膚科診療の臨床研修を行っていること。
イ 医師免許取得後2年の初期研修を終了した後に6年以上の臨床経験を有していること。うち、3年以上は、アトピー性皮膚炎を含むアレルギー診療の臨床研修を行っていること。
日本皮膚科学会でも届出制度を作っています。
乾癬の生物学的製剤のように承認制度は設けないが、薬剤の特性上、下記の要件を満たした上で届出したうえで、使用することになっています。
1)皮膚科専門医が常勤していること
2)乾癬生物学的製剤安全対策講習会の受講履歴があること
3)薬剤の導入および維持において近隣の施設に必要な検査をお願いできること
(乾癬の生物学的製剤使用承認施設の場合は、特に届出の提出は必要ございません。)
当院はもともと乾癬の生物学的製剤承認施設です。
乾癬性関節炎
乾癬性関節炎についてはリンヴォックのみが適応になっています。リンヴォックはJAK1を阻害するお薬です。通常は15mg錠を1日1回1錠、毎日服用します。今後、尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に対するチロシンキナーゼ2(TYK2)阻害剤であるデュークラバシチニブが承認申請中です。なお、乾癬に関係が深いIL17やTNFといった一部のサイトカインはJAK-STAT経路の影響を直接受けません。それだけにJAK1やTYK2を阻害するだけでしっかりとした効果が現れることを興味深く思っています。
円形脱毛症
円形脱毛症は毛穴、つまり毛包組織に対する自己免疫疾患と考えられています。通常は自己のリンパ球は自己の毛包を攻撃しないように保護されていますが(免疫寛容)、なんらかの理由で毛包を保護するバリアが破壊されると、CD8陽性NKG2D陽性の細胞傷害性Tリンパ球が特定の毛包を攻撃します。その結果、毛包がダメージを受け、毛が抜けてきます。ストレスなどが原因となったり、甲状腺疾患などの自己免疫性疾患に合併することがありますが、多くの場合は原因不明です。インターフェロンγやIL-15が病変の成り立ちに重要であることが知られており、その受容体からのシグナルにJAKが関連しています。
現在円形脱毛症に最も推奨される治療はステロイド局所療法と局所免疫療法です。その限られた治療法でも改善しない患者さんはたくさんいました。オルミエントは「頭部全体の概ね50%以上に脱毛が認められ、過去6ヵ月程度毛髪に自然再生が認められない患者に投与すること」という条件が設定されています。治療反応は、通常36週までに得られる、とされています。重症な患者さんに限った使用にはなりますが、治療法が増えたことを素直に喜んでいます。
よくある質問
一緒に使える薬はありますか?
塗り薬はすべて大丈夫です。JAK阻害薬のコレクチムも大丈夫です。飲み薬に関しては乾癬性関節炎でメトトレキサートとの併用は可能です。シクロスポリンとの併用はしないこと、とされています。生物学的製剤との併用も同様に行いません。
ワクチンは大丈夫ですか?
JAK阻害薬開始直前及び投与中の生ワクチン接種は行わないでください。コロナワクチンは大丈夫です。呼吸器感染症予防のために、インフルエンザワクチンは可能な限り接種し、65歳以上の高齢者には肺炎球菌ワクチンの接種も積極的に考慮してください。50歳以降の方には帯状疱疹の予防のためにも、シングリックスの使用をご検討ください。
飲み薬を飲む時の注意点を教えて下さい。
アトピー性皮膚炎や乾癬の場合、飲み薬を飲んでいても、塗り薬は皮膚症状が寛解(ツルツル)になるまで止めないことが大切です。その後プロアクティブ療法などに移行してステロイド外用薬の減量を図ります。
お薬は中止できるのですか?
リウマチ領域ではJAK阻害薬の中断、そして再投与について良いデータが出ているようです。乾癬、アトピーの生物学的製剤と違う点は、JAK阻害薬が低分子化合物である、というところです。そのため、生物学的製剤の弱点である抗薬物抗体、中和抗体ができません。理論的には、やめたり再開したりしやすい薬である、と言えるかもしれません。