アトピー性皮膚炎、乾癬に対する新しい塗り薬、ブイタマークリームの製造販売承認がおりました。新しいメカニズムのお薬です。どんな薬なのか、そのメカニズムや理論的背景をできるだけ詳しくわかりやすく解説したいと思います。
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ブイタマークリーム
なぜブイタマーと呼ばれるかというと、これはお薬のジャンルと関係します。このお薬は外用AhR調整薬という新しいメカニズムのお薬になります。これをTAMAと呼びます。難しいので、別に説明を加えます。そのTAMAとvictoryのVを合わせてVTAMAという商品名で海外では使われています。これをカタカナにしてブイタマークリームという商品名にした、ということのようです。2024年10月29日に発売予定となっております。
AhRとは
アリール炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor;AhR)は、表皮の細胞ケラチノサイトなどに多く分布します。ダイオキシン類を認識し、発生、生殖機能、免疫機能の障害や、がん化などの毒性の発現に関与することが知られています。その一方で細胞周期、細胞分化、免疫応答などの生理的な役割を担うことが示されています。、AhRに働く物質は、大きく2種類に分類されます。一つは、人体に有害な反応を生じるダイオキシン、多環芳香族炭化水素といった化合物であり、もう一つは人体に有益な反応を生じる抗酸化作用を持った化合物です。なぜAhRがこのような2面性を持った生体反応を起こすのかは、これからの研究の進歩に期待したいです。
TAMAとは
Therapeutic AhR modulating agent(TAMA)と呼ばれる物質は、タピナロフをはじめとして、 AhRに働きかけて治療効果が期待できるものです。先述のように、AhRに働きかけて生体に悪影響を与える芳香族炭化水素やダイオキシン類とは区別されます。
AhRを通じて体に良いことをするのがTAMA、ダイオキシンなどはAhRを通じて体に良くない反応を引き起こします。TAMAの代表選手が今回紹介するタピナロフです。
タピナロフが作用すると皮膚はどうなる?
タピナロフはAhRを介して表皮細胞のフィラグリン増加、つまり皮膚のバリア機能改善に寄与することがわかっています(Tsuji G et al: Int J Mol Sci, 2020)。アトピー性皮膚炎においては、バリア機能改善、抗酸化作用など今までの薬と違うメカニズムで皮膚炎の改善に寄与しています。
乾癬においても、IL17A, IL17Fといった炎症性サイトカインの減少、抗酸化作用、バリア蛋白の正常化などのメカニズムを通じて病変の改善に役立っています。
ブイタマークリームの効果
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎患者さんに対する国内臨床試験の結果について、一部紹介します。
塗布開始後8週間で、症状が消失ないしほぼ消失、かつ治療開始時にくらべてIGA (investigator’s global assessment) が2段階以上改善した患者さんの割合がブイタマークリームを塗った群では20.24%でした(主要評価項目)。
長期投与試験では、アトピー性皮膚炎の評価指標であるEASI (eczema area and severity index) が投与開始時より75 % 改善した患者さんの割合は徐々に増加し、52週時点では 76.6 % になりました。
ゆっくりと効果が上昇してくる印象です。塗り薬として、優れた効果が発揮できる印象です。
副作用
ZBB4-2 試験によると、多く見られた副作用は、塗った部位に毛包炎(17.9 %)、ざ瘡(ニキビ, 7.2 %)などがあります。頭痛が13.7 % の患者さんにみられました。
尋常性乾癬
尋常性乾癬に対する臨床試験の結果を紹介します。
塗布開始後8週間で、症状が消失ないしほぼ消失、かつ治療開始時にくらべてIGA (investigator’s global assessment) が2段階以上改善した患者さんの割合がブイタマークリームを塗った群では20.06 %でした(主要評価項目)。
長期投与試験では、乾癬の評価指標であるPASI (psoriasis area and severity index) が投与開始時より75 % 改善した患者さんの割合は徐々に増加し、52 週時点では 79.9 % でした。
副作用
ZBA4-2 試験によると、多く見られた副作用は、塗った部位に毛包炎(19.0 %)、ざ瘡(ニキビ, 2.3 %)などがあります。頭痛が2.6 % の患者さんにみられました。
アトピー性皮膚炎、乾癬ともに毛包炎、ニキビ、頭痛などが注意すべき副作用のようです。
用法・薬価など
アトピー性皮膚炎
添付文書には、「通常、成人及び12歳以上の小児には、1日1回、適量を患部に塗布する」と記載されています。
尋常性乾癬
添付文書には「通常、成人*には、1日1回、適量を患部に塗布する」と記載されています。
*薬剤の場合、成人は15歳以上を指しますので、15歳以上が適応となります。
薬価
1 g 300.80 円
15 g チューブ 1本 4512 円
3割負担の方で、窓口の負担は 1本あたり 1354 円です。
注意点
皮膚感染症を伴う患者さんに関しては、その部位への投与を避ける必要があります。やむを得ず使用する場合は抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬などで治療すること、または併用することが望ましいです。
妊娠中の方または妊娠の可能性がある方については、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用が検討されます。
授乳中の方は治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮したうえで、授乳の継続または中止を検討します。動物へ皮下投与した際に、タピナロフの乳汁中への移行が確認されています。
ブイタマークリームはアトピー性皮膚炎では12歳未満の小児に対して、乾癬では15歳未満の小児に対しての臨床試験を行っておりませんので、現段階では投与の適応はないことになっています。
禁忌は本剤の成分に過敏症の既往歴のある患者さんのみとなっています。
今後の課題
現段階ではアトピー性皮膚炎、乾癬ともに他の塗り薬、飲み薬、注射、光線療法との併用については、データがほとんどありません。併用の禁忌はありませんので、今後慎重に検討していきたいと思っております。また、どのような症状がある人に効きやすい、ないし効きにくいのか、などはまだ手探りの状態です。今後、お薬が普及して実際に使われるようになったらわかってくるものと思われます。
当院でもブイタマークリームの治験を担当しました。優れた効果を実感された方もおられました。10月29日(世界乾癬デー!)の発売が待ち遠しいです。