かゆみの定義とは

【痒み】かゆみ、皮膚をかきたくなるような感覚。かゆい感じ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

かゆみは非常にめんどくさく、不快な感覚です。このページでは、かゆみを深く掘り下げ、解説していきます。かゆみとそのメカニズムを知り、かゆみを治していきましょう。

かゆみが起きるメカニズム

そもそもかゆみがなぜ存在するか

痒みは、病原体や寄生虫、昆虫、植物など、外界からの有害物が皮膚に付着した際に、掻き出してそれらを除去するための自己防衛システムとしての役割を果たしています。そのため、寄生虫防御などに関わるTh2細胞を始めとする2型免疫はかゆみに大きく関わります。

掻くと気持ちいい?

痒くなると掻く、そして掻いたら後で痒くなる経験をしたことも多いと思います。そして、「掻いたらダメ!」と怒られても掻くことも多いと思います。掻くと気持ちいいからです。その「掻くと気持ちいい」ことはある程度メカニズムが知られていて、掻くことで中脳や線条体といった報酬系と呼ばれる脳部位が強く反応する事がわかっています。その報酬系をブロックする治療は現在ありませんが、かゆみ、そして引っ掻き行動が患者さんの悩みに大きく関わっていることがわかります。

そもそもかゆいとなぜ掻く?

かゆみと引っ掻き行動はセットになっています。脊髄反射でも引っ掻き行動が起こることが知られています。そもそも掻くことで生き物にどういった利益があるか、というと、少し前にも述べましたが皮膚に付着した寄生虫などの外敵を除去する、皮膚の炎症などの情報を生体に伝える役割が考えられています。アトピー性皮膚炎などでは、かき続けることで、皮膚のバリア破壊が生じます。それにより湿疹などの皮膚トラブルが悪化し、わずかな刺激にも反応してかゆみが起こりやすくなる「イッチ・スクラッチ・サイクル」が形成されます。かゆいと掻く、掻くともっと痒くなる、ということです。

かゆみは不快である

かゆくて眠れない、という経験をされた方も多いのではないでしょうか。また、かゆみによっておこる不快感、イライラ、不安などの問題がきっかけでさらに掻く、という経験をされた方も多いのではないでしょうか。「ストレス・スクラッチ・サイクル」とも言われます。アトピー性皮膚炎の場合、皮膚炎の見た目の症状よりもかゆみのほうがつらい、と表現される方も少なくないでしょう。

かゆみの伝わり方

かゆみは、皮膚の表面が外から刺激を受けたり、体の中で生じたアレルギー反応によってかゆみを起こす物質が放出されたりすると、神経線維の末端部分がこれらの刺激を受け取って、その情報を脳へ伝え、脳が「かゆみ」として認識します。つまり、かゆみを受け取るのは皮膚で、かゆみを感じるのは脳です。そもそもかゆみは、痛みの一部と考えられていたようですが、現在では痛みと異なる神経細胞によって伝達される、独立した感覚であると認識されています。

かゆみを伝える物質とその受け取り先

下の図にもあるように、かゆみを神経に伝える物質はたくさんあります。これは、アトピー性皮膚炎のかゆみについてメカニズムがある程度わかっている物質です。

ダニ抗原がつくこと、表皮細胞(ケラチノサイト)、皮膚のバリア機能低下、真皮の中での炎症によるT細胞からの因子、肥満細胞からの因子などとてもたくさんあります。アトピー性皮膚炎のかゆみは何が原因か、と言われても答えられないでしょう。たくさんの因子がありすぎて、単一の物質のみで痒みが生じることは通常ありません。

Tominaga M, Takamori K: Peripheral itch sensitization in atopic dermatitis. Allergology International
Volume 71, Issue 3, July 2022, Pages 265-277

かゆみの治し方

かゆみの治療薬

一般にかゆみ止めとされる内服薬は抗ヒスタミン薬といい、ヒスタミンの受容体をブロックする薬です。じんましんのかゆみはヒスタミンが主な原因なので抗ヒスタミン薬がよく効きますが、アトピー性皮膚炎などには効き目が限定的です。かゆみの原因はものすごくたくさんあります。アトピー性皮膚炎のかゆみは大変厄介です。最近、ネモリズマブ(ミチーガ)というアトピー性皮膚炎のかゆみに対する注射薬が登場しました。これは、Th2細胞から主に出されるIL-31というサイトカインの受容体をブロックする薬です。アトピー性皮膚炎のかゆみには大変良く効きます。

アトピー性皮膚炎の場合、塗り薬で皮膚炎を改善させることもかゆみの改善には大いに役立ちます。もちろん、注射薬やJAK阻害薬などの全身療法を用いてアトピー性皮膚炎の治療を行うことでかゆみは大きく減ってきます。アトピー性皮膚炎がある人の皮膚は、様々な刺激をかゆみとして認識してしまうため、アトピー性皮膚炎が改善してバリア機能が回復することでかゆみが改善してきます。

また、ナローバンドUVBをはじめとした光線療法は皮膚炎の改善のみならずかゆみに直接効果を示すことが知られています。

お薬以外でのかゆみの制御

かゆくてもお薬がない、直ぐに病院に行けない、ということも多いかと思います。

まず、冷やすことはよくやられると思います。これは、かゆみを感じる神経の働きを鈍らせることに繋がるので有効な手段です。保湿をすることも即効性はないですが役立ちます。皮膚のバリア機能が回復することでかゆみが起こりにくくなります。また、別のことを考えたり、楽しいことに集中することでかゆみを忘れることも可能なときがあります。

非常に不快なかゆみ、治し方もたくさんあります。今までの治療でうまく行かなかったとしてもまだやれることはあると思います。かゆくない日常は、アトピー性皮膚炎患者さんにとって目指すべき治療目標だと強く思っています。