アトピー性皮膚炎の新しい塗り薬が2022年6月1日に発売されました。

モイゼルト軟膏といいます。

一般名をジファミラストといい、ホスホジエステラーゼ4(PDE4) 阻害剤の塗り薬です。

このメカニズムの塗り薬は初めて登場します。効果について少し解説していきます。

アトピー性皮膚炎の皮膚ではどんな反応が起こっているか

アトピー性皮膚炎の皮膚内部では、様々な細胞が連絡を取り合いながら皮膚炎を起こしています。皮膚炎が起こる、持続するために重要な働きをする細胞はTh2細胞です。Th2細胞からのIL-4, IL-13, IL-31をはじめとしたサイトカインという蛋白がいろいろな細胞にはたらきかける結果、かゆみ、皮膚の乾燥、赤み、などいろいろな皮膚の変化がもたらされます。ちなみに、IL-4, 13というアトピー性皮膚炎の病変を作るのに重要な役割を果たす蛋白の受容体をブロックする薬がデュピクセントです。IL-31という主にTh2細胞から作られる、かゆみに強く関連する蛋白の受容体をブロックする薬が注射薬であるミチーガです。

Goodham MJ et al: J Am Acad Dermatol 2008;78:S28-36. より引用

cAMPとPDE4

活性化した細胞には細胞内のサイクリックAMP(cAMP)という物質が少なくなっていることがわかっています。このcAMPを分解する酵素がホスホジエステラーゼ(PDE)というものです。このホスホジエステラーゼはPDE1から11までのタイプに分かれております。アトピー性皮膚炎の成り立ちに関係する免疫関連の細胞では主にホスホジエステラーゼ4(PDE4)が働いています。そのため、免疫関連細胞の活性化を抑えるためにはPDE4を抑えることが理にかなっています。PDE4を抑える薬としては、アプレミラスト(オテズラ)という飲み薬が乾癬(かんせん)に使われているのが有名です。ところで、乾癬とアトピー性皮膚炎は疾患の成り立ちが大きく異なっていることが知られております。アトピー性皮膚炎ではTh2細胞や自然リンパ球2型(innate lymphoid cell 2: ILC2)をはじめとする免疫反応がメインで、乾癬ではTh17細胞やILC3細胞を中心とした反応がメインです。なぜPDE4阻害薬が両者ともに効くかというと、PDE4が免疫に関わる幅広い細胞に存在しているからです。モイゼルト軟膏が乾癬にも使えたら良いな、と個人的に思っています。

PDE4を抑えると免疫抑制されるの?

PDE4阻害薬は細胞の中のcAMP濃度を回復させる薬です。cAMP濃度が回復すると免疫細胞の活性化が抑えられます。そのため、これが免疫を抑えるほどの働きまでにはなりません。様々な細胞の過剰な反応を調節する、くらいのイメージで良いでしょう。

乾癬治療薬オテズラでPDE4を阻害することで、過剰な免疫反応を抑えることの説明。モイゼルト軟膏も同じメカニズムが働きます。

ジファミラストの効果

当院も参加した1%ジファミラスト第3相臨床試験 の結果は、包括的重症度評価(Investigator’s Global Assessment:IGA)を用いて症状の改善を評価し、その改善度が主要評価項目とされました。臨床試験の成果は論文化されています。投与開始後4週間で IGA が0又は1かつベースラインから2点以上減少を達成した患者さんの割合は、38.46%とプラセボ(12.64%)に比べて有意に高く1)、小児では0.3%製剤で 44.6%、1%製剤で47.1%といずれもプラセボ(18.1%)に比べて有意に高い効果を得ています2)。

病勢の指標であるeczema area andseverity index(EASI)が50%減少した指標である EASI 50 は 4週間の投与で58.24% とプラセボ(25.82%)に比べて有意に高くなりました。同様にEASI 75は 42.86% (プラセボ13.19%)、EASI 90 は24.73%(プラセボ5.49%)でした。4週後の平均EASI改善率は−49.1% (プラセボ −10.5%)でした1)。

小児での4週間投与後のEASI 50 は、0.3%製剤で69.9%、1%製剤で68.2%(プラセボ 31.3%)EASI 75 は、0.3%製剤で43.4%、1%製剤で57.7%(プラセボ 18.1%)、EASI90 は、0.3%製剤で32.5%、1%製剤で41.2%(プラセボ 7.2%)です2)。

主要評価項目である、IGAスコア2以上減少を達成した患者さんの割合2)。

投与開始後4週間における EASI 50, 75, 90の割合2)。

ジファミラストの安全性

目立った副作用は少なく、色素沈着障害(1.1%)、毛包炎、そう痒症、膿痂疹、ざ瘡、接触皮膚炎が記載されています3)。プラセボとくらべて明らかに多い副作用は認められていません1)2)。

モイゼルト軟膏の用法

15歳以降は1%製剤を使用します。14歳以下は0.3%か1%製剤を使用します。

通常、成人には1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布する。 通常、小児には0.3%製剤を1日2回、適量を患部に塗布する。症状に応じて、1%製剤を1日2回、適量を患部に 塗布することができる。(3.添付文書より)

モイゼルト軟膏の薬価

気になる薬価は以下のようになっています。

0.3% 1g 142.00円 10gチューブ1本で、3割負担の方が426円
1%  1g 152.10円 10gチューブ1本で、3割負担の方が456円

当院ではこのお薬の開発を手伝い、治験をしました。参加された患者さんからの評価はよく、塗った際の刺激感も訴えられることはありませんでした。効果に関しても総じて好印象でした。多くのアトピー性皮膚炎患者さんにとって役立つものと思っています。

参考文献

  1. Saeki H et al: Difamilast ointment in adult patients with atopic dermatitis: A phase 3 randomized, double-blind, vehicle-controlled trial. J Am Acad Dermatolc. 2022 Mar;86(3):607-614. doi: 10.1016/j.jaad.2021.10.027. Epub 2021 Oct 25.
  2. Saeki H et al: Difamilast, a selective phosphodiesterase 4 inhibitor, ointment in paediatric patients with atopic dermatitis: a phase III randomized double-blind, vehicle-controlled trial. Br J Dermatol. 2022 Jan;186(1):40-49. doi: 10.1111/bjd.20655.Epub 2021 Nov 1.
  3. モイゼルト軟膏 添付文書 https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070104.pdf