乾癬(かんせん)をお持ちの皆さんは、コロナでどうなるのか、そしてワクチンでどうなるのか、色々と不安なことだと思います。COVID-19が流行し始めて1年以上が経過しています。そしてワクチンが流通し始めた今、現状の問題を整理してどう考えていくべきかのヒントになればと考えています。そこで、色々な公的情報や論文などを検索し、今分かっていることをまとめます。この記事は、新たな事実が分かれば随時アップデートしていきます。
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乾癬患者さんがコロナウイルスに感染したらどうなるのか?
現在まで、乾癬があることで新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しやすい、という証拠は全くありません。乾癬は血栓症のリスクが高いことからCOVID-19にかかることで重症化するリスクが高いことが心配されています。しかし、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)へのかかりやすさ、重症化の割合は乾癬の有無で特に大きく変わらないようです1)2)。しかし、今まで知られている重症化しやすい合併症(心臓病、糖尿病、重度の高血圧、肝疾患、腎疾患、呼吸器系障害、悪性腫瘍、喫煙など)がある乾癬患者さんではCOVID-19の予後が悪いことが報告されています3)。
乾癬治療とCOVID-19
乾癬の治療は免疫を落とす治療を行うことがあるため、COVID-19にかかりやすいのではないか、重症化しやすいのではないか、ということが心配ごとだと思います。治療の内容によってどの様なリスクがあるのか、今分かっていることをお示しします。
乾癬の生物学的製剤や全身療法とCOVID-19
結論から言うと、生物学的製剤はSARS-CoV-2への感染のしやすさ、COVID-19の重症化について特に確率を上げるものではありません1)。したがって、生物学的製剤を投与している方は、SARS-CoV-2に感染していないのであれば特に中断する必要はありません。また、全身的な治療を始める際はよくリスクを勘案した上で医師と患者でしっかりと相談して開始すべきです1)。
国際共同調査によるとCOVID-19により入院する確率は生物学的製剤を使用している群で 17%と少なく、生物学的製剤以外の全身療法で34%、全身療法を行っていない群(塗り薬など)で29%との報告がありました。生物学的製剤使用者の方が人工呼吸器を使用する率、死亡率も少ないとも報告されています3)。長期間のステロイド内服はCOVID-19の重症化に影響している報告もありますので、ステロイドを内服している乾癬患者さん、とくに乾癬性関節炎の患者さんは注意が必要です4)。
新型コロナウイルス感染症の予防のため何をすべきか?
乾癬の重症度にかかわらず、対策は普通の方と変わりません。咳エチケット、手洗い、マスク、三密を避けること5)。これに尽きます。ワクチンは高い発症予防効果を示しており6)、かつ感染予防効果7)も報告され始め大変期待されますがワクチンを打ったことで何も対策をしなくてよいわけではありません。
コロナワクチンは打っても良いのか?
日本では現在ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ各社のワクチンが承認されています。流通しているワクチンはファイザー、もしくはモデルナのワクチンでいずれもメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンです。
National Psoriasis Foundation(米国乾癬財団)のCOVID-19タスクフォースからは、禁忌事項がなければmRNAワクチンをできるだけ早く打つことが推奨されています1)。
日本皮膚科学会乾癬生物学的製剤検討委員会、日本乾癬学会からもこれに準じた声明が出されています。
また、ワクチンを打つスケジュールで生物学的製剤などの全身治療を延期したり中止する必要は特にありません。
ワクチンを打ってはいけない人(禁忌)は、ワクチンおよびその成分に対するアレルギーがある人です。つまり、1回目の接種でアレルギー反応を起こした人か、同ワクチンに含まれる成分(ポリエチレングリコール:PEG)に対して重いアレルギー反応があった人は接種できません8)。
過去にアナフィラキシーを含む重いアレルギー反応を起こしたことがある場合や、採血等で気分が悪くなったり気を失ったことがある方は、接種会場にて30分ほど 様子を見ていただくことになっています。
乾癬の治療内容でワクチンの優先接種対象になるのか?
厚生労働省のHPからの抜粋です。2021年3月18日付けの資料9)には以下のように記載されています。優先接種申請については、お住まいの自治体のHPや広報などをご確認下さい。
1:以下の病気や状態の方で、通院/入院している方
①慢性の呼吸器の病気
②慢性の心臓病(高血圧を含む)
③慢性の腎臓病
④慢性の肝臓病(肝硬変等)
⑤インスリンや飲み薬で治療中の糖尿病または他の病気を併発している糖尿病
⑥血液の病気(ただし鉄欠乏性貧血は除く)
⑦免疫の機能が低下する病気(治療中の悪性腫瘍を含む。)
⑧ステロイドなど、免疫の機能を低下させる治療を受けている
⑨免疫の異常に伴う神経疾患や神経筋疾患
⑩神経疾患や心経筋疾患が原因で身体機能が衰えた状態(呼吸障害等)
⑪染色体異常
⑫重症心身障害(重度の肢体不自由と重度の知的障害とが重複した状態)
⑬睡眠時無呼吸症候群
⑭重い精神疾患(精神疾患の治療のため入院している、精神障害者保健福祉手帳を所持している、又 は自立支援医療(精神通院医療)で「重度かつ継続」に該当する場合)や知的障害(療育手帳を所持 している場合)
乾癬患者さんの治療内容にあてはまるのは、⑧ステロイドなど、免疫の機能を低下させる治療を受けている という項目です。飲み薬ではステロイド(プレドニン、メドロール、デカドロン、リンデロンなど)、メトトレキサート(リウマトレックス、メトレート、メソトレキセート)、シクロスポリン(ネオーラル)、JAK阻害薬(リンヴォック)、注射薬としては生物学的製剤(ヒュミラ、シムジア、レミケード、コセンティクス、トルツ、ルミセフ、ステラーラ、スキリージ、トレムフィア、イルミア)が対象になります。
2:基準(BMI30以上)を満たす肥満の方
BMI30以上の方も対象となります。
BMI = 体重(kg) ÷ {身長(m) X 身長(m)}
ワクチンの副作用はどうなのか?乾癬はどうなる?
乾癬があることで発熱などのワクチンの副作用が増強する明らかなデータはありません。発熱が怖くて予め解熱鎮痛剤を飲んでおくことでワクチンの免疫原性(効果)が減弱する可能性10)が言及されています。
ワクチンを打つことで乾癬が悪化するかどうか、については1つだけ悪化したという報告11)を見つけました。その他は乾癬は特に悪化しない12)13)という報告でした。
また、現在までワクチンを打った乾癬患者さんに、皮膚及び関節症状が悪化した例は少なくとも当院では経験していません。
mRNAワクチンは体内でコロナウイルスのスパイクタンパク、つまりウイルスの表面のとげとげを作らせます。また、mRNAはヒトの細胞の核には入っていくことが出来ません。そのためヒトの遺伝子情報を書き換えることが不可能です。そして、mRNAは細胞に取り込まれてすぐに分解され、作られたスパイクタンパクも10日以内に分解されて体内に残りません。メカニズムから言える結論として、長期的な副作用の懸念はまず考えにくいと言えるでしょう。
治療やワクチン、どう決めていけばいいの?
乾癬の治療薬の選択、変更やコロナワクチンを打つかどうかについては「医者に言われたから打つ」のではなく、医師・患者のしっかりとした相談で納得の行く着地点を見つけることが大切です1)。これをShared decision making(共同的意思決定)といいます。また、その判断材料は正しく根拠のあるものでなければなりません。周りの人が言っているから、インフルエンサーが言っているから、ということを判断基準にしてはいけません。
まとめ
乾癬の治療内容でSARS-CoV-2に感染しやすくなることはなく、COVID-19の重症化リスクも変わりませんが、糖尿病、肥満、高血圧などのリスク因子があると重症化のリスクが上がります。
乾癬であってもコロナ対策は普通の方と同じように行う必要があります。
治療で免疫を落とす可能性のある薬を服用、または生物学的製剤を注射している場合、優先接種対象になります。
乾癬患者さんはワクチンの成分にアレルギーがなければmRNAワクチンを打つことが出来ます。また、乾癬の症状には大きな影響を与える可能性が少ないようです。
治療内容の決定、ワクチンを打つかどうかについては医師、患者間でしっかりと相談し、共同で意思決定をすることが望ましいです。
参考文献
- Gelfand JM, et al: National Psoriasis Foundation COVID-19 Task Force guidance for management of psoriatic disease during the pandemic: Version 2-Advances in psoriatic disease management, COVID-19 vaccines, and COVID-19 treatments. J Am Acad Dermatol. 2021 May;84(5):1254-1268.
- Gisondi P, Bellinato F, Chiricozzi A, Girolomoni G. The risk of COVID-19 pandemic in patients with moderate to severe plaque psoriasis receiving systemic treatments. Vaccines(Basel). 2020;8:728.
- Mahil SK et al: Factors associated with adverse COVID-19 outcomes in patients with psoriasis—insights from a global registry–based study. J Allergy Clin Immunol. 2021 Jan; 147(1): 60–71.
- Cano EJ, Fuentes XF, Campioli CC, et al. Impact of corticoste- roids in coronavirus disease 2019 outcomes: systematic review and meta-analysis. Chest. 2020. https://doi.org/10.1016/ j.chest.2020.10.054.
- 厚生労働省: 新型コロナウイルス感染症予防のために. https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kenkou-iryousoudan.html#h2_1
- 厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A. https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0011.html
- Dagan N, et al. BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Mass Vaccination Setting. N Engl J Med 384(15):1412-1423, 2021. doi:10.1056/NEJMoa2101765
- コミナティ筋注 添付文書https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/GeneralList/631341D
- https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000756894.pdf
- Prymula R, et al. Effect of prophylactic paracetamol administration at time of vaccination on febrile reactions and antibody responses in children: two open-label, randomised controlled trials. Lancet 374(9698):1339-1350, 2009. doi: 10.1016/s0140- 6736(09)61208-3
- Krajewski PJ et al: Psoriasis flare up associated with second dose of Pfizer-BioNTech BNT16B2b2 COVID-19 mRNA vaccine. J Eur Acad Dermatol Venereol 2021 Jun 16. doi: 10.1111/jdv.17449. Online
- Damiani G, Allocco F, Young Dermatologists Italian Network, Malagoli PO. COVID-19 vaccination and psoriatic patients under biologics: real-life evidence on safety and effectiveness from Italian vaccinated healthcare workers. Clin Exp Dermatol 2021; https://doi.org/10.1111/ced.14631
- Pacifico A et al: COVID-19 vaccines do not trigger psoriasis flares in patients with psoriasis treated with apremilast. Clin Exp Dermatol. 2021 May 10. https://doi.org/10.1111/ced.14723
この記事を書いた人
「コロナワクチンを打っても大丈夫ですか?」の質問に現在まで「大丈夫です」としかお答えしていません。みなさんも「コロナにも感染せんバイ!」でお願いします。