炎症後色素沈着とは
レーザー治療をした後、シミがきれいに取れたと思ったらシミが出てくることがあります。よく「戻りシミ」といっている人もいます。これはレーザー機器によってはよく見られることです。スリキズや火傷が治ったあと、茶色っぽい色が跡に残ることを経験されたことがあると思います。それが炎症後色素沈着です。PIH(post-inflammatory hyperpigmentation)とも呼びます。ニキビの跡にPIHがあるとき、ニキビだけがある人よりもかなり生活の質(QOL: quality of life)にダメージがあることが示されています1)。つまり、PIHはとても気になるものです。火傷を負ってしまったとき、ヒリヒリする痛みはもちろんのこと、一番気になるのはこれじゃないでしょうか?この質問、病院でしたことはありませんか?
この火傷、跡が残りますか?
目次 [閉じる]
炎症後色素沈着を科学的に説明
炎症後色素沈着のメカニズムは正確にわかっていません。炎症がおこるプロセスがメラニンを作るメラノサイトを活性化させ、周囲の細胞にメラニンを供給することで起こります2)3)。深い傷や火傷など、表皮の一番下までダメージが及んだとき、灰色や青みがかったPIHができることがあります。この場合、真皮までメラニンが落ち込んでいるため、何を塗っても効きません。レーザーで治療する必要があります。
炎症後色素沈着のよくある原因
怪我(すりきず、切り傷など)、やけど
ニキビ
炎症性皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、虫さされ、かぶれ、乾癬など)
摩擦、こすり洗い
レーザー治療、手術など
PIHはレーザー治療、手術など治療の後遺症としても発生することがあります。一番問題なのは、触ったりこすったりする摩擦です。繰り返し起こる微細な炎症は、ご本人が自覚していないことも多く、蓄積していきます。一番治しにくいPIHは、長い期間こすっていることが原因でできるシミです。
炎症後色素沈着をどう治す?
通常は、何もしなくても炎症性色素沈着は徐々に軽快してきます。治す間に「こすらない」ことは大切です。ただ、軽快するまでの時間は半年から1年と長いため待てない、という方も多いです。その場合に当院で行っている治療について解説します。
原因の除去
PIHの原因となる皮膚症状の治療が最優先です。よくあるのが、ニキビ跡やアトピーの治った後の色素沈着が気になるケースです。この場合、PIHの治療を優先したくなるのですが、皮膚炎を治すことに力を注ぐことで、結果としてPIHの治療にもなり、予防にもなります。
日焼け止め
どのようなタイプのPIHでも、日焼け止めは必須アイテムです。せっかく炎症が治っていても紫外線の刺激で色がついてしまいます。まず日焼け止めを!
効果的な薬剤
ハイドロキノン
最もよく知られた美白剤で、チロシナーゼをブロックする作用があります。ハイドロキノン単体でも治療効果を発揮しますが、トレチノインをはじめとするレチノイド、コウジ酸、アゼライン酸など、皮膚のターンオーバーを促進するものを併用することでより改善することも示されています4)。当院でハイドロキノンを使うときは主にゼオスキンを用いていますが、その理由はピーリング剤を含んでいること、そして下記のレチノイドを含んでいることよりハイドロキノン単体よりも効果があるからです。
レチノイド
ビタミンAとそれの誘導体です。レチノールやトレチノインが代表的な成分です。お肌に対する良い作用はたくさんあり、このページで全ては網羅できません。PIHに対する作用で重要なのは皮膚のターンオーバーを改善し、抗炎症効果を発揮することにあります4)。
アゼライン酸
アゼライン酸はニキビの治療として用いられる成分ですが、そもそも美白剤として開発されてきたものです。チロシナーゼの作用を抑えるだけでなく、異常をきたしたメラノサイトを除去しようとする働きを持ちます2)。
トラネキサム酸、ビタミンC
肝斑の治療として役立つ内服ですが、炎症後色素沈着の治療としても有効です。
効果的な施術
ケミカルピーリング
グリコール酸、サリチル酸などのピーリングは炎症後色素沈着の改善に有効な手段の一つです。とくにニキビの跡には、ニキビの治療も兼ねて有効な手段です。
メソアクティス
ビタミンC、トラネキサム酸、アルブチン(美白剤)を導入することができます。PIHの治療を安全に行うことが可能です。肝斑があっても施術できます。
Qスイッチ・ルビーレーザー
深いところに生じたPIHはレーザーを使わないと太刀打ちできないことがあります。レーザーによるPIHの再発に気をつけながら行う必要があります。
何もしない
病院を受診して「何もしない」と言われると不安になる方もいますが、当院ではこの方針を取ることも多いです。炎症がなおれば、炎症後色素沈着は自然に軽快するからです。何もせずそのまま待つことも立派な治療になります。
参考文献
1.Darji K et al: Psychosocial Impact of Postinflammatory Hyperpigmentation in Patients with Acne Vulgaris. J Clin Aesthet Dermatol. 2017 May;10(5):18-23. Epub 2017 May 1.
2.Maghfour J et al: A Focused review on the pathophysiology of post-inflammatory hyperpigmentation. Pigment Cell Melanoma Res. 2022;35:320–327. https://doi.org/10.1111/pcmr.13038
3.Elbuluk N et al: American Journal of Clinical Dermatology. 2021; 22, 829–836. https://doi.org/10.1007/s40257-021-00633-4
4.Davis EC et al: Postinflammatory hyperpigmentation: a review of the epidemiology, clinical features, and treatment options in skin of color. J Clin Aesthet Dermatol. 2010 Jul;3(7):20-31.