現在、多くの方がアトピー性皮膚炎でお困りになっています。アトピー性皮膚炎の患者さんには、繰り返し起こる痒み、湿疹、乾燥などの症状が長く続きます。言い換えると、皮膚のかゆみ、皮膚炎、皮膚のバリア機能異常がお互いに影響を及ぼし合いながら症状が持続していきます。現在でも治療の主役はステロイド外用薬なのですが、それだけではうまく治療できない方も多くおられます。ここ最近の研究の進歩もあり、アトピー性皮膚炎の病態、すなわち皮膚の中で何が起こっているのか、ということがわかるようになってきました。その結果、多くの治療薬の開発がものすごい勢いで行われています。

本稿では、塗り薬、飲み薬、注射薬の開発状況について現在申請中のもの、最近発売されたものを中心に解説していきます。 

塗り薬

コレクチム軟膏

デルゴシチニブという一般名で、ヤヌスキナーゼ (JAK) 阻害薬です。2020年6月から使用可能になり、アトピー性皮膚炎の治療が大きく進歩しました。2歳以上のアトピー性皮膚炎に適応があります。

モイゼルト軟膏

ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬の塗り薬、ジファミラストです。2020年9月に製造販売承認申請されてから発売まで時間がかかりましたが、2022年6月1日から発売されます。薬価は以下のとおりです。

0.3% 1g 142.00円 10gチューブ1本で、3割負担の方が426円
1%  1g 152.10円 10gチューブ1本で、3割負担の方が456円

0.3%、1%の2種類の剤形があります。添付文書の記載は下のようになっています。

通常、成人には1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布する。
通常、小児には0.3%製剤を1日2回、適量を患部に塗布する。症状に応じて、1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布することができる。

なお、小児は2歳以上から、となっています。

飲み薬

オルミエント

コレクチム軟膏と同じ、JAK阻害薬です。飲み薬で、JAK1/JAK2を阻害します。経口JAK阻害薬はリウマチ領域ですでに使用されており、オルミエントもリウマチではすでに使用可能でありました。2020年12月、「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」に適応が追加されました。

通常、成人にはバリシチニブとして4mgを1日1回経口投与する。なお、患者の状態に応じて2mgに減量すること。

オルミエント 添付文書より

レントゲンなどでの結核の確認、B型肝炎、C型肝炎の検査が必要です。腎機能低下がある場合は薬剤を減量しなければなりません。そのような事前チェクが必要なので、この薬を使用する際は日本皮膚科学会の生物学的製剤使用認定施設か、専用の講習を受けて申請をする必要があります。当院は認定施設ですので、使用が可能です。

経口JAK阻害薬は帯状疱疹のリスクが上昇することも知られており、当院ではオルミエントを投与する前に帯状疱疹ワクチンを打つことをおすすめしています(50歳以上)。

アトピー性皮膚炎の病態形成に関わるサイトカイン イーライリリー社のサイトより引用
サイトカインとJAKファミリーの関係、オルミエントの効くポイント イーライリリー社のサイトより引用

リンヴォック

経口JAK阻害剤で、一般名をウパダシチニブといいJAK1を特に阻害する物質です。関節リウマチに適応があり、リンヴォック錠という製品名で処方可能です。アトピー性皮膚炎に対しては2020年10月に製造販売承認申請がなされ、2021年8月25日に追加承認されています。

ステロイド外用薬などを一定期間長く適切に使用しても十分な効果が得られないアトピー性皮膚炎の方が対象となります。12歳以上の患者さんに適応があります。

リンヴォック錠 15mg

通常は15mg錠を1日1回1錠、毎日服用します。薬剤費用は3割負担の方で、4週間毎日服用すると41750円です。治りにくい患者さんには30mgの高用量を使用することも可能です。この場合4週間毎日服用で62660円です。長期投与が可能であり、治療にあたっては高額療養費制度を利用することを推奨します。この薬を使用する際は日本皮膚科学会の生物学的製剤使用認定施設か、専用の講習を受けて申請をする必要があります。当院は認定施設ですので、使用が可能です。

サイバインコ

経口JAK阻害剤で、JAK1を阻害する物質で、一般名をアブロシチニブといいます。2020年12月に製造販売承認申請がなされています。↓ニュースリリース

https://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2020/2020_12_09.html

2021年12月13日より発売されました。50mg・100mg・200mgの3剤形があり、通常容量から減量したり増量したりできる点が特徴的です。

サイバインコ錠 100mg

1日1回内服ですが、服用時間の制限がないことも特長です。しかし、新しい薬剤であり、2週間投与が限度になります。100mgを2週間投与すると21930円、200mgでは2週間で32900円です。この薬を使用する際は日本皮膚科学会の生物学的製剤使用認定施設か、専用の講習を受けて申請をする必要があります。当院は認定施設ですので、使用が可能です。

注射薬

デュピクセント

2018年にデュピクセントが使われるようになってから、アトピー性皮膚炎の、特に重症の方の治療が大きく変わりました。今までうまくいかなかった方でも治療効果が得られるようになりました。2021年末に出されたアトピー性皮膚炎治療ガイドラインでは寛解導入だけでなく、寛解維持にも推奨されています。デュピクセントの詳細についてはリンクより解説ページをご参照ください。

ミチーガ

痒みに特に関係が深い IL-31の受容体、IL-31受容体Aをブロックするモノクローナル抗体、ネモリズマブです。NEJMに第三相試験の結果が報告されています。↓ 論文

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1917006?query=featured_home

製造販売承認申請はかなり前から出ていたのですが、2022年3月3日にやっと承認されました。成人及び13 歳以上の小児に適応があります。「アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)」を効能・効果としています。1回60mg を4週間隔で皮下注射します。

薬価は117,181円となります。3割負担で35,150円の自己負担になります。

展望

まだ臨床試験を行っている最中の薬、これから進んでいくものも含めると非常に多くの種類があります。先に述べた薬剤だけでなく、IL-13, IL-33, OX40, IL-36R, TSLP, H4R, AhR などアトピー性皮膚炎に関わる多くの分子を標的とした治療が開発されています。その結果、アトピー性皮膚炎の治療はここ数年でさらにガラリと変わる可能性があります。製薬会社さんは、激しい競争で大変かもしれませんが、悩んでいる患者さんにとっては喜ばしいことです。これを読んでいるあなたが、もしアトピー性皮膚炎で悩んでおられたら、少しでも希望の一助になってくれると嬉しいです。

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